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「すみませんでした。」
燕は青年に腹を殴ったことを何度も謝った。
「そ、そんな!もう謝らなくても大丈夫だよ!元は君を驚かせた俺が悪いんだ!」
「でも…!」
言葉を紡ごうとしたとき、青年は人差し指を燕の口の前に出す。
「この話はお互い様ということでもうおしまい。いいよね?」
「…はあ。」
燕はポカンとしながら返事をした。
彼女が答えると青年はニッと笑った。
「いい子だね。素直が一番!」
「いい子って…。」
太陽のような青年の笑顔に少し眩しく見えた。
だが、子供扱いされるのが若干腑に落ちなかった。
「ところで、何故あなたはそこで倒れてたんですか?」
忘れそうになった肝心なことを訊ねた。
すると青年は苦笑いを浮かべた。
「実は、昨日の夜から飯食わないで仕事をしてたんだ。そしたら空腹で立っていられなくてさっきの状態になったわけ。」
「昨日の夜から食べてないんですか!?」
驚きのあまり声を上げる。
「倒れて当たり前ですよ!そんなに長い時間お仕事するのなら非常食を持つものじゃ・・」
「すぐ仕事が終わると思って持って行かなかったんだよ!まさか昼頃までかかるなんて誰も思わないだろ?!」
涙目で彼は燕の肩を揺さぶった。
(この人、先を読まない人だ…。)
呆れてものが言えなかった。
普通は兵糧ぐらいは持ち歩いているのにと。
「と、とにかく私のおむすびを1つあげますから泣かないでください!」
傍らに置いてあったおむすび1つを青年に差し出した。
すると青年は彼女の肩を揺さぶるのをやめ、目の前のおむすびに目を止めた。
「いいの…?」
「はい。」
燕は首を縦に振った。
青年は彼女からおむすびを受け取った。
「どうしよう…俺、夢を見ているのかな?だってここに綺麗なおむすびが…。」
「いいから早く食べてください。」
ブツブツと呟く青年に切り捨てるように言った。
「じゃ、いただきます。」
燕に言われ、青年はおむすびを一口食べた。
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