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「う…美味い!こんな美味いおむすびを食べたのは久々だよ!」
幸せそうな顔で彼はおむすびに食いつく。
「久々って…普段は何を食べているんですか?」
「え?ん~と…蛇とか蛙。」
「へ?」
「冗談だよ。」
「っ…!」
茶目っ気に笑う彼を少し腹立たしく思いながらも、燕はおむすびを口に運んだ。
すると青年の腰に挿してある刀に目が入った。
(この身の着こなしに刀…武士なのかな?)
彼の赤い着物に灰色の袴、髪型以外どうみても武士の服装だった。
けれど、よく見かける堅そうな武士とは全く雰囲気が違かった。
「ん?俺の顔に何か付いてた?」
燕の視線を感じた青年は訊ねた。
「あ、いえ…何でもないです。」
「そう?」
青年は首をかしげる。
しばらく沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは燕だった。
「その刀…」
思ったことを聞いてみることにしたのだ。
「ああ、この刀のこと?」
青年は腰に挿してある刀を手に取り、鞘を抜いて刃を見せる。
白銀の刃は太陽の光に反射し、綺麗に輝いているように見えた。
「綺麗な刃ですね。いつも手入れをしているんですか?」
「まあね。刃がダメにならないようにこうして丁寧に手入れをしているんだ。」
刃を鞘にしまい、再び腰に納める。
「俺さ、こうして武士の格好をしているんだけど本当はこんな格好したくないし、刀もこうして持ち歩きたくないんだ。」
「え?」
いきなり彼は本音のような言葉を吐き出した。
「刀で罪のない人を斬ったりするところを見ると、たまに町を守る意味が分からなくなるんだ。争って何のためになるのだろうって。」
「争いは誰も好みませんよ。」
「え?」
燕は彼に語りかけた。
「人は既に幸せなら争うことなんてしません。その幸せが掴めないからこそ人は争うんです。己の幸福のために。」
「己の幸福のために…か。」
青年は燕の言葉を呟いた。
「私も争いは嫌いです。特に、あなたが言ったように罪のない人を傷つけるそんな争いは。」
一口分のおむすびを口の中に放り込んだ。
すると、青年は「そうか」と微笑んだ。
「君は他の人と考えることが違うんだな。」
「え?」
すると、彼は立ち上がり燕を見下ろした。
「さて、俺はそろそろ行くよ。」
「え、話はまだ終わっ…!」
燕が立ち上がった瞬間、青年は呉羽町へ続く道を走り出した。
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