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「呉羽町はこの先ずっと真っ直ぐ行った所にある!暗くならないうちに着いてるといいな!」
「ちょっと!」
止めようとしたが彼はどんどん離れていく。
「また君に会えるような気がする!それまでじゃーな!」
明るい声は空に響き、気が付くと青年の姿は見えなくなっていた。
「何だったの…?」
1人取り残された燕は呆然と彼が去っていった道をしばらく眺めていた。
青年と別れてしばらく経つ。
燕は彼に言われたとおり、まっすぐ呉羽町に続く道を地道に歩いていた。
「はあ…はあ…い、いつになったら着くんだろう…?」
道のりは長くまだ町さえ姿を現さない。
気が付くと日が傾き始めていた。
「とりあえず暗くなる前に呉羽町に着かないと。」
疲れが溜まった足を引きずるように動かし、休まぬと歩き続けた。
(それにしてもあの人、一体何者なんだろう?武士にしてはとても身軽な格好だった。…もしかして!)
「どこかから逃げてきた辻斬り?!」
大声を発する。
しかし、ハッと我に返り咳払いをした。
「いや…それはないか。本物の辻斬りだったらすぐに私を襲ってきてもおかしくない。うん、今まで応戦してきた奴らは私を見てすぐに刀を振るってきたからそれはない。」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「でも…。」
気になったことがあった。
『また君に会えるような気がするよ!それまでじゃーな!』
脳裏に青年の声が蘇る。
まるで再び会えることを分かっているように聞こえた。
「まあ、気にすることじゃないか。」
考えることをやめ、また歩き出す。
その時だった。
「え…。」
燕は目の前の光景にポカンとした。
彼女の前には夕刻なのに賑わう町並み、その真ん中に建つ美しい城が自分を迎えるかのように堂々と建っていたのだ。
「半日って本当だったんだ。」
予定より早く着きホッとした。
そして、燕は呉羽町に足を踏み入れすぐに今晩泊まる宿を探し始めた。
そこまでは良かった。
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