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「でもいくら清四郎の勘違いだったとはいえ、俺たちの正体を知ってしまったことには変わりはないよ、蓮司。」
一吉は険しい顔で蓮司と呼ばれた眼鏡をかけている男に語りかけた。
周りにいる者たちも眉間に皺を寄せる。
「そうだな。知られたからには…」
「ま、待ってくださいよ!さっきと話が!」
透麻が止めようとした時だった。
「蓮司さん。俺に提案があります。」
口を開いたのは幸斗だった。
「何だ、幸斗?」
「この人を影狼組に入れてみてはどうですか?」
燕を目で指しながら告げた。
幸斗の言葉に沈黙が流れる。
「ゆ、幸斗…お前嘘じゃないだろうな?」
一番沈黙を切ったのは清四郎だった。
「俺がここで嘘を言うとでも思ってるのか?」
「た、確かに幸斗が嘘を言うとでも思えないが…。」
朝霧も少し驚いた様子で幸斗を見ていた。
「でも、何でその提案を?」
一吉は首をかしげる。
「この人、人並み以上に戦えると思ったんです。」
彼の言葉に男たちは一斉に燕を見た。
「人並み以上に?この子が?」
一吉は訊ねると幸斗は頷いた。
「俺が最初この人と会った時、彼女、手に短刀を持っていました。」
幸斗は燕の手を指差す。
「そういえば、こいつ手に持ってたな。」
昨夜の状況を思い出した清四郎は顎に手を当てる。
「しかも、少し額に汗が浮かんでいた。それはまるで俺と会うまで辻斬りと対峙していたみたいでした。」
「ということは、君はどこかの剣士か道場の門下生か?」
朝霧は燕に訊ねる。
すると彼女は首を横に振った。
「私は、剣士でも道場の門下生でもありません。ただの旅人です。」
「旅人って…じゃあ何で辻斬りと対峙してたんだよ?」
清四郎は訊ねる。
「それは…。」
燕は言葉を詰まらすが、再び口を開く。
「自己防衛です。このままだと私までやられそうだったので短刀で威嚇しただけです。」
「俺には威嚇しただけじゃなくて応戦していたようにしか思えなかった。」
追い打ちをかけるように幸斗は言葉を放った。
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