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「そのために、最期は今まであの方を守ってきたこの刀で首を切ろうと決めていました。」
短刀を胸の前に見せながら語る。
「だけど…私は貴方に負けた。自害するために使おうとしていたこの短刀を使うことは、この先ないですから。」
手に持っている短刀を地面に放り投げ、寂しく微笑んだ。
「だったら、俺達のためにその刀を使えばいい。」
「…え?」
燕は自分が地面に放り投げた短刀を拾う透麻を見る。
「どういうことですか?」
彼は真剣な顔で口を開いた。
「さっき蓮司さんが言ったことを繰り返すけど、俺達、影狼組はこの呉羽町や住人を守るために作られた組織だ。」
「はい、それは聞きましたけど…。」
燕の問いに透麻は頷く。
「この町には善良な町人に危害を加える罪人みたいな奴らがいる。そいつらから彼らを守るためには燕、君の力が必要なんだ。」
彼女に断言した。
「朱月さん…。」
その言葉に燕は彼の名を呟く。
「それに。」
透麻は燕に一歩近づき、彼女の手に短刀を置いて微笑んだ。
「君…いや、お前は俺に負けた地点で影狼組の一員だ。だから…。」
燕の両肩に手を置く。
「死ぬことを考えるのはやめろ。俺達と一緒に大切なものを守りながら生きていかないか?」
誠意に溢れる眼差しに燕は目を見開いた。
こんなに嘘がない真っ直ぐな眼差しを見たのは久しぶりだったからだ。
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