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(ん?風…?)
風が吹く音で燕はゆっくり瞼を開く。
目の前の光景に目を見開いた。
(あれ?…ここはどこ?)
視界には霧に包まれた草原が広がっていたのだ。
人の気配はなく、動物の姿も見当たらない。
(私さっきまで布団に…。)
すると、背後から足音が近づいてくる。
「誰?」
素早く振り向き、短刀を構えた。
黒い影がこちらに近づいてくる。
そして、霧の中から出てきた人物に燕は息を呑んだ。
「俊宏さ、ま?」
灰色の髪に整った顔立ちの男、自分の主の姿に目を疑わせた。
すると、彼は燕に微笑みかけた後、体を翻しそのまま霧の中へと向かって歩いていった。
「待ってください!俊宏様!」
燕は慌てて俊宏の後を追った。
だが、一向に距離は縮まらない。
「私、まだあなたに…きゃっ!」
俊宏を追いかけようとしたが、躓いて地面に転んでしまう。
上半身を起こし、彼が霧の中へと歩いていく姿がどんどん小さくなっていった。
「俊宏様!俊宏様!」
名を呼んでいくと同時に視界がぼやけていった。
******
「待ってください!…っ!」
気がついたときには俊宏の姿はなく、見慣れない天井があった。
燕はゆっくり上半身を起こし、辺りを見回す。
そこは自分の部屋だと確信した。
「ゆ、夢か…。」
ここは現実だと安堵し、額に手を当てる。
冷や汗が髪と寝巻きに張り付いていた。
深くため息をつき、障子の方を見る。
外はまだ暗く、明け方のようだった。
「皆はまだ寝ている時間か…けど、丁度いいかも。」
布団から立ち上がり、忍び服に着替え始める。
そして、部屋を出て廊下を歩いた。
燕が向かった先は勝手場だった。
さすがにこの明け方、誰もおらず燕1人だけだった。
(無理矢理ここに入れられたけど、これからお世話になるんだからせめてこれだけは…。)
勝手場に足を踏み入れ、次々と調理器具を並べていく。
「えーと、野菜はどこなのかな?」
野菜がどこにあるか探そうとキョロキョロと周囲を見回した。
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