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明神城火災事件から数年後の9月。
夏は終わり、秋を迎える冷たい風が街の空に吹いていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!今日の酒はいいもの入っているぞ!」
「お!そこのご夫婦!ちょっとこっちに寄っていかないかい?」
「団子はどうだい?お団子美味しいよ!」
人々は寒風に負けず活発に呼び込みをしている。
京都から遥か離れた江戸の町は祭りのように賑わい、甘味処や酒屋、着物店などが並んでいた。
その人ごみの中、外套を纏い笠を被った少女・七草燕が流れに沿って歩いていた。
「結構賑わってるところね。やっぱり江戸の町は他の町とは賑わい方が違うのが分かるな。」
燕は凛々しい横顔を笠の下から覗かせ、辺りを見渡した。
すると、足元にコツンと何かが当たる。
「ん?」
見下ろすとそこには鞠が転がっていたのだ。
「一体どこから…?」
鞠を拾い、持ち主を探そうと辺りを見回す。
「あの…。」
小さな声が下から聞こえた。
声のした方に視線を向けると、小さな女の子が目の前にちょこんと立っていた。
「そ、それ…私の…です。」
モジモジしながら彼女は燕に言う。
「ああ、あなたのだったね。はい、どうぞ。」
燕は少女の視線と自分の視線を合わせるようにしゃがみこみ、鞠を渡した。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「ここは人が多いから広いところで遊んでね?」
「はーい!」
少女は笑顔で頷き、燕に手を振りながらその場を去った。
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