前章 全ての始まり

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「な…だと…っ。」 「が…っ…。」 男達は首から血を吹き出し、どんどん倒れていった。 燕は、血糊が付いた刃を地面に振り払い、再び上段に構える。 目の前には、まだ5人の男が立っていた。 「仲間の仇ぃいいい!!」 「女はここで息絶えろぉおおお!!」 一斉に彼女に飛びかかってきた。 普通の侍なら、剣豪ではない限り勝算はない。 しかし、彼女は怯まず真っ直ぐ彼らを鋭い目付き見つめる。 そして、敵に向かって地面を思いっきり蹴った。 「!!」 彼らは酷く驚いた。 さっきまで離れた場所に立っていた燕が、一瞬で自分達の前にいたのだから。 燕は、1番前にいた男の首を目掛けて短刀を振り上げた。 「ぎゃあああっ!!」 男の断末魔が部屋中に響き渡る。 目の前にいた男が血飛沫を上げながら倒れていく所を、他の者達は目の当たりにし怯んでしまう。 だが。彼らには怯む暇などなかった。 隙を見た燕は、男達の首、胸、腹と血の雨を浴びながら斬り裂いていったのだった。 「うぎゃあああ!!」 「ころさ、ないで…くれ…。」 命乞いの言葉など彼女の刃で斬り捨てられる。 膝から崩れ落ちるように、彼らは倒れていく。 燕は、刀を振るっていた手を止めゆっくり下ろした。 「はあ…はあ…。」 どのぐらい人を斬ったのだろう。 辺りを見回すと、男の集団は全員座敷に血まみれで無惨に倒れていた。 燕は、肩を上下に揺らしながら血で汚れた自分の手を見つめる。 手に持っている短刀の刃も、自分の限界を示しているようにボロボロだった。 「つば…め…。」 微かに彼女を呼ぶ声が聞こえた。 「俊宏様!」 少し離れた所に倒れている男に燕はすぐに駆け寄る。彼の上半身は左肩から右下腹部にめがけて大きく斬られており、出血もひどく意識が朦朧とした状態だった。 「俊宏様!しっかりしてください!」 俊宏の手を強く握る。 しかし、彼の手はとても冷たくまるで氷のようだった。 「燕…逃げろ…。もうじき、ここは燃えて…崩れる。」 「何言ってるんですか!私はあなたを置いて逃げたりしません!」 紺色の瞳に涙を浮かべながらもここを離れようとしない。 すると俊宏は、力のない左手を動かしゆっくり燕の頬に触れ微笑んだ。 「…、…。」 「…え?」 燕は彼の言葉に目を見開く。 「…と…。」 最期の言葉を残すと、俊宏は静かに目を閉じ、彼女の頬に触れていた手も地面へと落ちていった。 「俊宏様?…俊宏様!お願いですから目を開けて!」 燕は、俊宏の手を更に強く握りしめ何度も叫んだ。 揺さぶっても、揺さぶっても、俊宏は返事は返ってこない。 どんなに強く願ってもその目は再び開かれることはなかった。。 彼女の大粒の涙は、俊宏の頬にポロポロと零れ落ちていく。 「いやああああっ!!」 彼女の悲痛な声は、激しく燃え上がる炎の中で響いたのであった。 その後、長年人に愛されてきた明神城は火災により崩壊。 城に仕えていた武士や刺客らしき者の遺体も複数見つかった。 しかし、白茶色の髪をした忍びの少女の姿は未だに見つかっていないようだった。
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