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「アイス食えるのか?」
隣の彼女に二つ折りのソーダアイスを渡す。
「いっ、今ならいける気がする」
彼女は空色のアイスを受け取ろうとした。受け取ろう、とは。
アイスは誰の手にも触れず、階段で転がった。
彼女との間に束の間の静寂が訪れる。蝉の声がやけにうるさい。
「ごめんね」
力なく彼女は笑った。そのごめんねは、落ちたアイスに向けてなのか、それとも。
笑っているはずの瞳の奥は潤んでいる。
ああ、そんな顔するなよ。
見ていられなくて、足元でうたた寝する猫へ視線を向ける。
呑気でいいなお前は。分からないだろう?
触れたくても触れられない彼女の気持ちも、俺の想いも。
見上げれば入道雲。
隣には涙を隠すように狐面をつける彼女。
去年も同じ景色を見ていた気がする。
この一本を食べ終えたら、いつも通り病院に向かう。
隣の彼女の、眠ったままの「抜け殻」に会いに行くのだ。
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