仕立屋キングス・スタイナー

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王国歴2018年 春の季節も終わろうとする時期。 金の髪に青というよりは、空色に近い瞳をもつ、顔の整った夏の季節を迎えたなら、1つ年をとる17才の少年は革手袋を嵌めた手で、丸太を切り株の上に置いて斧を振り上げます。 「よいしょっと」 セリサンセウムという国で、軍に所属する新人兵士アルス・トラッドの小気味良い掛け声と共に振るった斧が、乾いた心地良い音を響かせ、先程切り株の上に置いた丸太を割りました。 「アルス君、それを更に半分の半分位に割った大きさまでしておいてくれ。 で、数日お日様に当てて、乾かして水分を抜いたなら良い薪の完成~」 「はい、判りました賢者殿」 新人兵士が利発にそう返事をする相手は、彼が騎士として護衛している賢者―――の使い魔で、あって当人ではありません。 その使い魔の姿は、アルスの髪色と同じ金のカエルで、フヨフヨと彼の周囲の空を泳ぎながら、声だけは顔の半分以上の大きさがある口から上司の声を伝達してくれます。 「じゃあ、薪を日干しするのには、あちらのスペース使いますね」 アルスが快活に答えると、使い魔のカエルが「ゲコッ」と機嫌良さげに鳴き、空を泳ぎながら屋敷内に戻って行きました。 それを見送ってから、新人兵士は先程半分に割った薪を、革手袋を嵌めた手で取って再び切り株の上に乗せて、対して働いていない自覚はあるけれど、小さく息を吐き出します。 「良い天気だけれど、一気に暑くなったなぁ。でも、梅雨もまだだし、それが終わったならもっとなんだろうな」 この国の王様の住む都からそれ程離れていない、"鎮守の森"という場所の中にある屋敷の中庭に、初夏を意識させる、強い陽射しが降り注ぎ、アルスは木陰から、自分の瞳と同じ色をした空を見上げます。 「……戻ってきたけれど、何となく気持ちが落ち着かないな」 中庭から見える風景を眺め、新人兵士は思わず染々といった調子で呟きます。 アルスが賢者の護衛騎士として配属され、それなりの事件があって月の満ち欠けが一回りした頃。 セリサンセウム王国の西の最果てにある領地ロブロウから、40年程前に平定され、18年前には侵略戦や世界中を巻き込む大災害も乗り越えた穏やかな世相の国に、似つかわしくない報告が王都に届けられました。 人攫いの咎を犯した4人の貴族を、その土地を納める領主が法に則り処断したというものになります。
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