それは、毎年やってくる花火大会の季節。

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女、35歳。独身で彼氏もいない。で、実家暮らし。 まわりは、どうしてひとり暮らしをしないのか、いぶかしげに見てくるけれど、 ここは大都会東京。駅まで徒歩3分、勤め先まで電車1本で15分。 家には、わたしがハタチのときに家に迷い込んできて それからずっと居座っている猫のマルモちゃんもいる。 仕事から帰ると夜ごはんも母親が用意してくれているし、洗濯だってしてくれている。 快適な生活で幸せすぎるくらいだ。 どこに実家から出ていく必要があるものか。 秋には、家の前の公園に生えている金木犀のにおいに癒されて、 冬は、こたつでまるくなる。 春には、傍の河川敷の桜が満開になり、部屋の窓からお花見が楽しめる。 実家の立地条件はとてもいいのだ。最高なのだ。 夏だけを除いては。 冬のクリスマスとバレンタインは、目をつぶって耳をふさいでいれば知らぬ間に終わるが、 夏だけは、そうもいかないのだ。 7月25日の花火大会の日、それは今年も容赦なくやってきた。 家のまわりには金魚すくいにりんご飴、焼きそばの夜店が並ぶ。 なんてったって、ここの辺り一帯は打ち上げ花火がとてもよく見える最高の場所だから。 2階の自分の部屋の窓から大きな花火が見える。ビルなどにも視界は邪魔されない。 にぎやかなキャッキャッという声。恋人同士であろう浴衣の女の子と甚平の男の子。 わたしは、遮光カーテンを閉める。耳をふさいでも、ドーンドーンという音は心臓にまで響く。 マルモちゃんは、怖がって押し入れにしっぽをまるめて隠れている。 去年は大雨が降って、花火大会が途中で中止になってたけど、今年はそうもいかない。 コンビニにアイスを買いに行きたいけれど、外はごった返しているので、騒動がおさまるまで、 マルモちゃんと一緒にまるまっているしかない。 「あーあ。夏なんてなくなればいいのに」
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