僕と他人の見分け方

3/8
前へ
/8ページ
次へ
ならば、真の平等を手に入れるためにはどうすれば良いか。 僕たちの偉いご先祖様は、お金や国という概念を撤廃しました。食べ物や贅沢品は、働いた量に応じてもらえるようになりました。 かくして、僕たちは平等な世界を手に入れました。同じ能力、同じ顔、同じ体、同じような家。僕たちはほとんど同じになりました。 ただ、行う仕事は違います。 まあ、個々人で行う仕事は違いますが、入社試験などがあるわけでもなく、自分の望むときに望むだけ、望む仕事を行うシステムなので、これもある意味では平等かもしれません。 僕たちの中で同じではないことといえば、今や識別番号と年齢くらいのものとなっています。 ちなみに、僕の識別番号は811241103543です。 こんなに長い識別番号を憶えていられませんので、この番号は右手の甲に刻まれています。 自分ですら憶えられない識別番号を、他人が憶えられるはずがありません。僕たちは、誰ともわからない人と共生し、誰ともわからない自分を生きているのです。 僕は、この平等に紛らわしい世界のことが少し不自由に感じてきました。 せめて、僕と他人を明確に見分ける方法が識別番号以外にあれば、僕たちがいちいち右手の甲を確認しあうこともないのだろうと思うのです。 だから、僕は旅に出ました。古代から伝わる由緒正しき「自分探しの旅」というやつです。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加