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まず僕は電車に乗りました。駅員の仕事をしている人が、僕に尋ねてきました。
「識別番号を教えてください」
僕たちの世界には、お金という概念がありません。しかし、働いていない人に無償でサービスを提供するわけにはいきません。
僕たちは、遺伝子上必ず健康に働ける体で産まれてくるのですから、働かざる者食うべからずの精神が根付いているのです。
この駅員さんは、僕に識別番号を訪ねることで、個人ごとの労働量記録データベースにアクセスし、電車に乗ることができる分だけ働いた形跡があるのかどうかを確かめます。働いた量が多ければ多いほど遠くまで行くことができます。
僕は自分の識別番号を駅員さんに告げ、颯爽と電車に乗り込みました。適当な席に腰を掛けて、僕と他人の見分け方のヒントとなりそうなものをメモしておこうと思い立ちました。
胸ポケットに入れたメモ帳を取り出し、ササッと書き込みます。
一、識別番号が違う。
二、年齢が違う。
三、労働量が違う。
この三つを書き込んだものの、これだけでは問題を解決できそうにありません。識別番号については、僕だけが持っている番号なので、唯一無二ではありますが、いちいち右手の甲を確認しなくてはなりません。
年齢に関しては、僕と同じ人がごまんといるでしょう。労働量に至っては変動するので、識別番号より憶えにくそうです。
労働時間のことを考えていると、僕は駅員の仕事をしたことがなかったことを思い出しました。
四、仕事が違う。
ただ、駅員の仕事をしたことがない人なんて、僕以外にもたくさんいるのでしょうから、これも僕と他人を見分ける方法にはならなそうです。
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