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夏は嫌い。
だって、暑さは、私の存在価値を、アッと言う間に無意味にしてしまうから。
「ばあちゃん、これ、氷入ってないじゃん」
「なぁに言ってんの。3個は入れたよ、氷」
何気ない、小学1年生の男の子と、その祖母の会話。
私には耳が痛くて、耳を覆いたくなる会話。
「嘘だぁ、氷なんて、1つも入ってないじゃん」
違うよ、違うよ。
実はおばあちゃんの言う通り、氷は3個入れてあったんだよ。
「嘘なんて言わないよ。ちゃんと入れたの。こんなに暑いから、溶けてなくなったんだよ」
そう、おばあちゃんの言う通り。
氷は溶けて、ジュースと同化しちゃたんだよ。
「えー、そんなのつまんないや。ガリガリしたかったのに」
ごめんね、僕。
暑さの前では、私は太刀打ち出来ないのよ。
溶けないように頑張ろうとしても、暑さに弱い私は、すぐに溶けてしまう。
役目なんて1つも果たせず、跡形もなく溶けて消えてしまう。
でも思うの。
暑ささえなくなれば、私の力は最大限に発揮されるのにって。
だから思うの。
夏なんてなくなればいいのにって。
「じゃあ、仕方ない。もう1つ、おまけで追加してあげようかな」
「やったー」
満面の笑顔。
やっぱり夏も悪くないかな。
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