小窓の向こうに、眩しい君

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美咲さんの気分から来る突拍子もない要求は今に始まった事じゃない。 そして彼女に悪意などある訳でもなく、ただ世界は自分で回っていると本気で思っている。 小さい頃から蝶よ花よと育てられ、生粋なお嬢様気質なだけだ。 私のお母さんは美咲さんの家の住込み使用人。 幼い頃に遭った交通事故のせいで足に少しの障害を抱えている。 お父さんと呼ぶ人とはすぐに離婚し、まだ赤ん坊だった私を一人で養なわなければいけなかったお母さんを雇ってくれたのが美咲さんのお母さんである奥様だった。 だから美咲さんがどんな理不尽な事を言って来たとしても、抗えない。 一階の冷蔵庫に買って来た抹茶オレを入れ、今から残っている分の掃除に取り掛かろうとしていたら。 「雫!どこ行ってたのよ!」 「あ…」 「書斎の掃除、あれだけしといてって言ったのに!」 「すいません…」 奥様の気性は、荒い方。 だから使用人も長続きしなくて、結局忍耐強いお母さんの他に、もう一人私を可愛がってくれている竹中さんが残っている。 こんな風に理由も聞かずに怒られるのは、日常茶飯事。 でもちゃんと事前に報告をしなかった自分に否がある。 そう思えば、何も辛くはない。
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