ぶどうジュースの物語

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「私なんかしたっぽい…?」 「隣の古賀さんの息子さんが来てね。会話はあたしも聞いてないんだけど、急に奥様が雫を呼べって」 咀嚼して飲み込んだ内容に、心臓が、跳ねた。 奏人くん来てるのは、多分大志くんが探しに行ったから。 でも、なんで私が、呼ばれるの…? 「とりあえず早く行きなさい、お風呂はあたしがしとくから」 「あ…、分かった」 催促されるがまま、リビングに向かうけれど。 足は鉛のように重たくて、人の体というものは正直で、気持ちとリンクしているのだと感じずにはいられなかった。 扉の前に来て、ドアノブにかけた手は、どうしてか動かない。 あんな場面を見られて、どんな顔で会ったらいいんだろう。 無表情は、さすがに失礼。 …笑えば、いいのかな。 でも笑える自信なんか、全然ない。 『もう遅いわねぇ、ちょっと呼んでくるわね』 『いや、大丈夫ですよ』 また胸の奥から、飛び上がる音が聞こえた。 すぐに奥様が来ることに対してではなく、 久しぶりに聞く、奏人くんの声に。
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