ぶどうジュースの物語

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太鼓を叩くような、轟きが自分ではっきりと聞こえてる。 早く開けなくちゃいけないのに、全く体が動かない。 落ち着かそうと深く何度も呼吸を繰り返すも、彼女はそんな時間をくれはしなかった。 「あら、居たの?」 開けられたドア、首を少し傾げる奥様の目はいつも以上に厳しく感じる。 「あ、…今開けようと」 「どれだけ待たせるのよ、早く来なさい」 「はい…」 顔を伏せることぐらいしか出来くて、そのまま奥様の足元を見ながら着いて行く。 どれだけ広いリビングでも、歩く距離は知れている。 立ち止まった彼女の足の少し先には、大志くんの小さい青のスリッパと、来客用のチェックガラのスリッパが目に入り。 心拍数は更に、激しくなる。 「ちょっと、雫。挨拶もないなんて失礼でしょう」 「あ…すいませんっ」 下げた頭を少しだけあげると、そこには微笑んでいる、あの時以来の奏人くん。 …やっぱり、太陽みたい。 見てるだけなのに、日光浴をしてるような、あったかさ。
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