ぶどうジュースの物語

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マジマジと見上げていたら、たっちゃんは何も言わずに何処かに行って。 すぐに戻って来た彼が持っていたのは、コンビニカゴ。 顔色一つ変えることなく、それを渡してくれた。 「使え」 「あ…助かる、ありがとう」 たっちゃんはずっとこんな感じ。無愛想で、無口。 でも本当はすごく優しくて、こうした気配りも、いつものこと。 「たっちゃん、今から部活?」 「ああ、朝飯足りなかったから適当にパンでも買って行こうかと思って」 「そっか、部活毎日だよね。熱中症とか気をつけてね」 「お前の方こそ気をつけろよ」 「えっ?」 「熱中症とか」 「あっ、うん。ありがとう」 「じゃ、行くわ」 頭をぽんぽんとしたたっちゃんは、そのまま持っているパンを持ってレジに向かった。 お別れの時は、必ずと言っていいほどするこの行為は、彼の習慣みたい。 高校に入ってからはあまり会うこともなくなったけど、別に小中もベッタリするような仲でもない。 近所のマンションに住んでいるため、こんな風に偶然に会えば、ちょっと話をするだけだけど、私にとってちょっとしたお兄ちゃんみたいな感じで。 なんか、…落ち着く。
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