ぶどうジュースの物語

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「ちょっとっ!なんでこれ伸びてるのよっ!」 罵声と共に、勢い良く顔に投げつけられたTシャツ。 ミネラルウォーターも買えたし、今日は平穏に過ごせると思っていたのに。 「この生地はあれだけ手洗いでしてって言ったじゃない!」 「…すいません」 「もうこれ高かったのよ?!しかも一回しか着たことないのに!あー、もう最低っ。今日これ着ようと思ってたのに!」 すごい剣幕で声を荒げる美咲さんは、化粧も髪型も支度し終えていて、上だけ家着のままだった。 これを洗ったのは多分、竹中さん。 分けていた物の中から黒色だからと、取り出したに違いない。 すぐに洗うか、事前にお母さんと竹中さんに言っておけば、こんな事にはならなかった。 通達を怠り、後回しにしてしまった自分に問題がある。 「すいませんでした、次からこんな事がないよう」 「次があったら困るわよ!」 「…すいません」 「全部手洗いにさせてないだけ有難く思いなさいよ!本当、なんの為に雇われてんの?」 「…すいませんでした…」 「もう要らないから適当に着といたら?どうせ自分じゃ買えないだろうし」 お礼なんか、言いたくもない。 込み上がる怒りを拳で耐えて、そのまま一礼をして部屋を出た。
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