ぶどうジュースの物語

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「雫、一緒にカブトムシ採りに行こう」 行けるものなら、一緒に行ってあげたい。 でも奥様に見つかったら、またコテンパンに言われるのは目に見えている。 返事を渋る私を見て、向日葵のような笑顔は徐々に曇って行っていく。 ああっ、どうしようっ。 「坊ちゃん、雫ちゃんは女の子なんですよ?虫が怖いのに可哀想ですよ」 助け舟を出してくれた竹中さんだが、大志くんはもう完全に闇モードに。 「雫、そんなに虫、苦手なのか」 「えっ、えと…」 口をぎゅっと結いつけて、わなわなと震えてる唇からして、もう今にも泣きそうだ。 横目で竹中さんを見ると、頭を横に振っている。 これは断れという意味なんだろうけど、この顔を前にそれはちょっと厳しい…。 あの時も大志くんの目の前ではっきり言われたし、もう正直に言った方がいい。 「あのね、その、一緒に行きたいんだ。すごく。でも私あんまり大志くんと一緒に居たら、奥様が良く思わないの、大志くんもよく知ってるよね?」 「…二人だからだめなんだな」 「えっ?」 意思の強そうな瞳で、真っ直ぐ見つめる大志くん。 「二人じゃないなら大丈夫ってことだろ。…分かった、ちょっと待っとけ」 「えっ、ちょっと大志くん!」 すぐに見えなくなってしまった大志くん。 足が速いとは聞いていたけど、あんな俊足だったとは。
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