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「世話といっても看護婦がいるから、そんなにする事はない。重要なのは献身的に何かをしてあげるということだ。美咲の顔に泥を塗るような事は絶対にしてくれるなよ」
「念のために言っておくけど、変な気を起こすんじゃないわよ。あくまで美咲の代わりよ、この事を口外した日にはクビじゃ済まないからね」
次から次へと言われる内容を理解するのに必死で。
「そうと決まれば、とりあえず病院へ行こう」
立ち上がった旦那様は、着いてこいと言わんばかりに顎をしゃくりあげるが、やっと状況が飲み込めた私はまだ疑問がたくさんある。
「あの、美咲さんのフリって、普通にバレるんじゃ」
「それは大丈夫だ、ただ喋るなよ」
「え…?」
話すな、ってなんで…?
「来たら分かる、早くしなさい」
苛立った様子で見つめた彼は、そう言ってリビングを出て。
蔑むような目で見やった奥様は、私を人として見ているのだろうか。
それでも拒否権がないのは、私が卑しい身分だから。
こんなあり得ない話を、受け入れざるを得ない立場にいるから。
胸を裂かれるような思いに、ただ拳を握りしめるしかできなくて。
誰も悪くはない。
誰のせいでもない。
幾度も心の中で唱えては、鼻歌を歌っている美咲さんをできるだけ見ないようにして、その後をついて行った。
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