89人が本棚に入れています
本棚に追加
車内で旦那様に言われたのは、毎日夕方以降に行くこと。
奥様には、変な気を起こしたらただでおかないこと。
頷くことしか出来ない私は、憤りと悔しさでいっぱいだった。
都内でも有名な大きな病院に着き、彼達に連れられ、辿り着いたのは古賀 奏人のネームプレートがかかってある病室の前。
入院している事実を突きつけられ、足が竦む。
今、彼はどういう状況なのか知れるというのに、怖くて見たくない。
「今から喋るなよ」
小声で話す旦那様の険しい目つきにまた頷いて、ノックされたドアを見つめることしか出来ない。
コンコン
「はい、どうぞー」
久しぶりに聞いた奏人くんの声は、以前と変わらない明るいもの。
大事に至っていないのだと分かり、重たかった肩の荷が下りた気分だったが、次に目に映った光景に言葉を失った。
「えーと、どちらさんですか?」
ベットから起き上がっている彼の目は包帯が巻かれていたのだ。
顔にも大きな絆創膏が貼られ、なんとも痛々しい姿に、立ち尽くすしかなかった。
「正裕おじさんだよ、調子はどうだい」
「あ、おじさん来てくれたんですか、ありがとうございます。調子は相変わらずです」
「事故ったのを聞いて美咲が居ても立ってもいられなくてね、今日連れてきたんだよ」
事故…なんだ。
ここで初めて、彼が入院している理由が分かった。
最初のコメントを投稿しよう!