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【なんで事故ったの?】
平仮名で、分かりやすく書いていって。
奏人くんは、面倒くさそうな態度一つせずに神経を集中させて、書かれた文字を理解しようとしてくれた。
「トラックと車が事故った現場に出くわしてさ。よそ見してたら横からバイク来てそのままぶつかって。んでガラスの破片が飛び散ってる地面に顔からダイブしちゃったのよ」
話を聞いただけでも、痛々しくてゾっとする。
でも骨折とかしてなくて本当に良かった…。
【目は治るの?】
「うん、瞼に破片が食い込んだだけで眼球には問題ないよ。大志と約束してた日に事故ったから行けなかったんだ、代わりに謝っといてくれる?」
そう、だったんだ。
あの日来なかったのは、怒ってるとかじゃなくて、事故ったからなんだ。
今まで突っかかっていたものが取れたような、曇り空が一気に晴れたような気分だった。
【ちゃんと言っておくよ】
大志くんもショックがってたけど、こんな理由じゃ仕方ないよね。
むしろ大事に至らなくて、本当に良かった。
「ありがとうな。またお詫びするって言っといて。それより声大丈夫なの?」
良心が、ズキズキと疼く。
嘘なんてつきたくないのに。
【大丈夫だよ、ありがとう】
「そっかー。歌好きって言ってたけど、潰れるまで練習してるなんてすごいと思うよ。でも話せないとか不便だよな」
【うん】
「でもなんか面白いな。俺は見えないし、美咲は話せないし」
美咲さんのこと、呼び捨てなんだな。
それだけ、仲が良いんだ。
初めて知った事実に、何故にチクリと、胸に何かが刺さるような感じがして。
変に、痛い。
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