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それから部屋に行って、すぐに戻ってきた美咲さんから渡されたのは彫刻刀と10平方cm程の木の塊。
"ちゃんとやってよね"と言われ、奥様には何でも話すように念を押された後、やっと解放された。
「お疲れ様」
「…うん」
お風呂上がり、倉庫に戻った私を出迎えてくれたのは、悲しそうな顔をしているお母さん。
そんな彼女を見て、溜まっていたものが溢れ出そうになって、堪えるのに必死だった。
「こっちにおいで」
隣のスペースを軽く叩いた彼女に言われるがまま、そこに腰をおろした。
「…奏人くんと仲良くして欲しくない理由、美咲さんなのよ」
「…うん」
「ずっと前からそういう話してたの聞いてたから」
「…うん」
あの時の竹中さんの真意も、なんとなく、分かってしまった。
『その方は、坊ちゃんが安易に遊びに誘っていい方ではありませんよ』
美咲さんが、結婚を考えている人だから。
絶対に怒らせてはいけない相手だから。
「ねぇ、お母さん。…こんな事して、本当にいいのかな」
奏人くんが笑いかけてくる度に、胸が張り裂けそうになる。
あんなに優しい彼をこんな風に騙して。
これからのことを思うと、本当に罪悪感で押し潰されそうだ。
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