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「声、出にくそうだな」
…良かった。
鷲掴みにされた心臓が、解放されたようだ。
それでも引いていた汗が、またどっと出てしまって、身体に熱さがこもる。
手に文字を書かないと話せないのに、これじゃ臭いが気になって仕方が無い。
ベッド際に置かれた椅子を少し離して座ると、奏人くんは右手を差し出してきた。
「今日何したー?」
本当に、優しい。
こういうところが、人に好かれるんだろうな。
【今日は特に何もしてないよ。でも、お肉料理作ってきた】
「えっ!マジで?」
【あとスイカも】
「俺そんなつもりで言ったんじゃないんだけど。なんか悪い」
申し訳なさそうにしているのを見て、こっちが謝りたくなった。
勝手に作ってきたのに、なんで奏人くんが謝るんだろう。
もしかして、嫌だったかな。
行き過ぎた真似を、してしまったのかもしれない。
【ごめんなさい】
「いや、むしろすごい嬉しいから、謝らないで」
真剣でいて、優しい口調に多分、嘘はない。
奏人くんの言葉は、不思議だ。
途端に、お日様に包まれたような温かい気持ちにさせてくれる。
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