可笑しな頼まれ事

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目の前に、奏人くんの顔。 間隔なんて5cmもない、と認識した時には ガタンッ ぱっと離れた勢いで、椅子を倒してしまった。 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ。 もう穴があったら、入りたいっ! 「ちょっ、大丈夫?!」 ああっ、最悪だっ。 心配をかけてはいけないと、慌てて彼の手を突つくと、すぐにほっとしたのか強張っていた肩が降りた。 「ドジだなぁ。怪我でもしたらどうすんだよ」 なんだろう。 怒られてるのに、なんか、くすぐったい。 変に、心地が良い。 「おーい、美咲?」 我に返り、慌てて文字を書きに腰を上げる。 近付いたら、先ほどの至近距離で見た奏人くんの顔が浮かび上がってきて。 意味も分からずに、顔を背けてしまった。 ああ、私どうしたんだろう。 なんか、可笑しいや。 余計なことを振り払い、とにかく謝ろうと手を伸ばして。 人差し指が彼の温度に触れた瞬間、ぴりっと電流が走るような感覚に襲われる。 そして連動するように、早くなる心拍数。 さっきまで普通だったのに、なんでこんなにも落ち着かないんだ。 【ごめんなさい】 「どこかぶつけたか?痛かったら医者呼ぶから」 【大丈夫】 嬉しいような、苦しいような。 締め付けられているような、ふわふわ浮いてるような。 もどかしくて、でも言葉で表現できない。 私、やっぱり変だ。 すごく、すごく、変。 だってさっきから、顔が、見れなくて。 指先が、痺れるように、熱い。
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