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「雫、とりあえず仕事に戻りなさい」
「あ、はい…」
神妙な面持ちの旦那様に言われ、三人に一礼をしてキッチンに入ると、お母さんは慌てて包丁を置いて駆け寄って来た。
「お母さん、旦那様達は何の話をしてるの?」
「実はね…」
心配そうに私の手を取る彼女の表情から、先ほどの会話の内容はいいものではないとすぐに分かる。
『お前、なんの為にあの学校に入ったのか分かってるのか?』
ぐつぐつと煮込む音しかないキッチンに響いた、旦那様の低い声。
握りしめるお母さんの手に、力が入る。
美咲さんがあの学校に入ったのには、理由があるの…?
『分かってるよ!そのために頑張ったし、入学してからも仲良くしてるし。ただ世話なんてあたし本当に出来ないって。それで上手くいかなくて株が下がったら元も子もなくない?!』
『美咲の言うとおりですよ、こんな事もできないだなんて思われたらどうするんですか。いくらなんでも啖呵の切り過ぎですよ』
『今日島崎の令嬢がお見舞いに行ってる、それぐらい言わないともう先を越されると思ったんだ』
『だから雫にさせようよ、あの子なら全部できるじゃないっ』
話が全く、…見えてこない。
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