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ゆっくりと真っ白なボンネットが出てきて。
高級な外車のエンブレムが、やけに輝いて見える。
横切る車の運転席に座っているのは、スーツを着た男の人。
後部座席の窓ガラスには、スモークがかかっている。
奏人くんのお父さんは、多分仕事だから…お母さん、かな。
颯爽と走り去って行く車は、炎天下と無縁だといわんばかりに涼し気で。
その後ろ姿から、先に目を離したのはたっちゃん。
「ここらへん、本当金持ちしか住んでないのな」
「そうだね」
「じゃ、俺行くわ。日焼けするからお前も早く入れ」
「うん。また入れ物、洗って返しに行くね」
「ああ。じゃあな」
「部活、怪我しちゃだめだよっ」
振り返る事なく手だけを振って、そのまま坂を下りていくたっちゃん。
汗で中に着た黒のTシャツが、映ってて。
ズキズキと、胸が疼いた。
また、なんかでお返ししよう…。
そう心に決めて、門を開けた。
少ししか出ていないのに、じりじりとした暑さに汗がびっしょり。
毎日、こんな暑さで外で練習するたっちゃんは本当にすごいと思った。
照り付ける太陽に眩んでいたとき。
「ちょっと!どこ行ってたのよー」
前から歩いて来るのは、日傘を持った美咲さん。
紫外線対策のアームカバーまで、しっかり装着している。
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