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「そうなのか…」
気落ちした大志くんは、俯いてしまった。
奥様は今日生花の習い事で留守にしてるし、大丈夫かな。
「葛まんじゅうあるんだけど、一緒に食べない?」
「えっ!」
「奥様には秘密だよ」
花が綻ぶような笑顔を見せた彼は、何度も大きく頷いて。
その愛らしさに、こっちまで口元が緩んだ。
「美咲さんにこれ渡してくるからちょっと待っててね」
「ああ、待ってるぞ!」
本当に可愛いんだから。
にやける顔を正しつつ、二階に上がった。
廊下を渡り、一番奥の部屋をノックするとすぐに返事が聞こえてきて。
静かに開けると、目に入ってきたのは服を散乱しているダブルベッド。
クローゼットの前に立っている美咲さんは、ひょいっと引き戸から顔を覗かせる。
「あ、買ってきたー?」
「はい。これ、レシートとお釣りです」
「ありがとうね」
シックな四角いテーブルにみかんゼリーとそれを置いた。
全身鏡を見ながら、両手に持つ服を当てて唸っている美咲さん。
直感で、分かってしまった。
今日着て行くものを、選んでいるんだ。
お洒落な彼女はいつも出かける時は、気合をいれている。
それでもこんなに悩むことなんかなかったのに。
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