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「ねぇー」
背後から美咲さんの声がして、すぐに掃除機を止めて振り返る。
書斎の扉に持たれかけている彼女は、シャワーを浴びた髪が濡れたままだ。
「はい」
「今日、お見舞いあたしが行くから、浅原の抹茶プリン買ってきて」
「え…」
…今日、行くんだ。
「なに?都合でも悪いの?」
「あ、いえっ。抹茶プリンですね、分かりました」
「あんた確か手書きでやりとりしてるんだっけ?」
「はい…」
「面倒くさ。…まぁ適当にやるわ。それ終わったらすぐ買ってきて、今日早めに行くつもりだから」
「…分かりました」
「あ。多めに買ってきてね。奏人くんの家族の分もあるから」
奏人くんの家族に会いにいくから、早めに行くのか…。
一気に、世界の違いを突きつけられたような感じが否めなくて。
昨日、笑っていた彼が、やけに遠くに思えた。
『明日も待ってるなー』
別に私に言った訳じゃない。
美咲さん本人が行くんだから、一番良いんだ。
…早く片付けよ。
何も考えたくなくて、一番音が大きい"強"に設定して、掃除を再開した。
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