甘酸っぱい謎に悪魔の誘惑

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【好きなの?】 「嫌いって言ってたじゃん」 キョトンとした彼に、全身の血液が逆流したような感覚になる。 やばい、これは非常にやばい。 もうこれで逃げ切るしかない。 お願いだから、それ以外は突っ込まないで。 【ごめん、忘れてた】 「あっそ」 笑って流すか、責められるのかと思っていたのに。 返って来たのは、予想外な素っ気ない返事。 【ごめんなさい、もう覚えるから】 「俺の事、全然知らないもんな…美咲」 ぷいっと顔を背けた奏人くんに、落ち着けないほどの焦りを感じる。 私のせいで、美咲さんの印象が悪くなっちゃう。 『美咲の代わりに奏人くんに少しアピールして欲しいの』 今日、言われたばかりなのに。 アピールするどころか、火に油を注いでる。 【ごめんなさい、本当に怒らないで】 「もーいいよ」 冷たく突き放すような声色。 あの見下す瞳が、鮮明に過る。 『言っておくけど、失敗は許さないわよ』 さっき目を赤く腫らしたお母さんの泣き顔が浮かぶ。 私が原因で関係が悪化したら、全てを失うかもしれない。 伊藤家以外、お母さんを受け入れて家まで貸してくれるところなんて早々ない。 今にも崩れ落ちそうな足場に、恐怖と焦燥に取り憑かれる。 …どうしよう。 本当にどうしたらいいんだろう。 『とにかく奏人くんに気を持たせるような事をして』 藁にもすがる思いの私にとって それはまるで悪魔の囁きのようだった。
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