甘酸っぱい謎に悪魔の誘惑

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「…37.6」 体温計をまじまじと見たお母さんはため息混じりに呟いて。 数値の高さに、驚いてしまった。 「今日はもうゆっくり休みなさいね」 「でも…」 「家の事は竹中さんも来るから安心しなさい」 頭を撫でたお母さんは薬を取ってくると言って、不自由な足で梯子を下りて行く。 その姿に、申し訳ない気持ちが込み上がる。 今朝から頭痛がして、多分寝不足だろうなと思っていた。 しかし昼間になって視界がぐるぐる回るほどのものと化していて、フラついた私を無理やり倉庫に連れ戻したお母さん。 そして熱を計られ、先ほどに至る。 本当、何してるんだろう…。 自分の情けさに言葉も出ない。 別にお腹を冷やして寝たわけでもないし、湯冷めをしたわけでもない。 それなのに熱を出した理由として、考えられるのは昨日の出来事。 あの後、家に帰ってからもずっとあのお兄さんの事を反芻していた。 根拠は何もないけれど、彼は、私のことを知っていたんじゃないかとしか思えない。 『なんで君にアイスを買うかとかさ』 この確信に似たような気持ちにさせるのが、飄々とした顔で言われたこの一言。 一体、誰なのか。 過去の記憶をひたすら辿っても、全く思い当たる節すらない。
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