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許しを請う気持ちに、恥ずかしさも何かも忘れて。
咄嗟に思いついた、抱擁、のつもり。
でももうしがみ付いていると言った方が、適切なのかもしれない。
恋愛経験なんて無い私の精一杯の行動に、驚き固まる奏人くん。
首に手を回して、見られてもいないけど彼の後頭部に顔を伏せる。
鼻を掠める、シャンプーのフローラルな香り。
彼の首に直に触れている右腕がやけに熱い。
無音に無言の部屋、びくともしない彼から吐息さえ聞こえてこない。
この静寂が、変な冷静さを取り戻させる。
…なんて事を、してるんだろう。
他人事のように、客観視するのはきっと、現実逃避。
すぐさまそれが自分がした事だと自覚するには、そう時間はかからない。
ドンッ ドンッ
太鼓のように勢い良く、打ち鳴り始める心臓。
当たっている彼の肩にまで響いてそうな激しさを抑えたくて、腕の力を強める。
「…なに、これ」
抑揚のない、吐いた息と共に出てきたような、掠れた声。
そこにどんな感情が混じっているのか、読み取るに足りなかった。
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