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身動き出来ずにいる私の腕をゆっくり解いた彼は、掴んだまま口を横一文字に閉じている。
もう、最悪だ。
太陽だって言って傷付けたことを謝りも出来ていなければ、また更に気を悪くさせてしまっている。
なんで私はいつも言葉の選択を間違えるのだろう。
なんですること全部、裏目に出てしまうのだろう。
「なんでこんな事すんの?」
沈黙を破ったその口調は、煮え滾る怒りを露わにしている。
完全に機嫌を損ねてしまったのは、もう明らかだった。
それでも、なんとかしないと。
ちゃんと謝ったら、さっきみたいに許してくれるかもしれない。
一縷の望みを抱いて、彼の空いている手をつつくと黙ったまま突き出された。
こんな奏人くん、初めてだ。
…どうしよう。
めちゃくちゃ、怖い。
嵐のような後悔の念に潰されそうになりながら、手の平に視線を落とす。
先ほどまで頬を優しく包んでくれたのに、何故か急に見知らぬ人のものに感じる。
【ごめんなさい】
慣れない左手でたどたどしく書いた、6文字。
奥様に念を押されているから。
あなたに気を持たせる事をしなきゃ、路頭に迷うから。
…本当の事なんて、言える筈がない。
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