甘酸っぱい謎に悪魔の誘惑

22/37
前へ
/37ページ
次へ
「ごめんじゃなくて、なんでこんな事したのかって聞いてるんだけど」 更にきつく、責めたてるような言い方に身体は強張る。 なんでそんなに怒るの…。 普通にベタベタするくらいに、慣れてるんじゃないの…。 目一杯の抵抗も、心に留めて。 今度こそは怒らせないよう慎重に、十分に考えてから文字にしていく。 【怒ってるっぽかったから。嫌われたくなくて】 はっ、と失笑なのか苦笑なのか判らない笑い。 でも呆れているのは、見なくても分かる。 「…なにそれ」 飽きた口が塞がらないと言いたげに、また乾いた笑い声が聞こえて。 「誰にでもしてんの?」 え…なに、その言い方…。 冷め切ったその言葉の意味を必死に呑み込もうとしていたら、 「…っ!」 掴まれていた右腕が、ぐいっと引っ張られる。 あまりの力強さに、ベッドに倒れそうになる身体を左手でなんとか支えたが、膝に乗せていた鞄は無残にも床にずり落ちていた。 何が起こっているのか、全く把握できない。 握られている手首が痛くて、見上げた彼の顔に一切の表情が見受けられないことを除いて。 首を傾げた彼は薄っすら微笑んでいる。 「嫌われんの、嫌なんだよな?」 背筋が凍るような、冷たい嘲笑に目を逸らせなくて。 ただ本能は逃げろと雄叫びをあげている。 手を解こうとするものの、ビクともしない。 …怖い。 全神経がそう訴えてるのに、力が抜けて行く。 「じゃ、ヤラせてくれんの?」 奏人くんと似つかわしくないその態度に、その発言に 呼吸の仕方すら、忘れてしまった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加