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「それで、す、…好きな、…人がいるんですけど」
言葉にした途端に、自分がひどく烏滸がましく感じる。
その隔たりの大きさを、改めて実感してしまうような相手に、また心が軋む。
「その、家のお嬢さんも、その好きで」
「うん」
「だから、その、全然、かな、わ…っ」
叶わなくて。
その単語が、あまりにも哀しくて。
胸を張り裂けるほどの、切なさがこもっていて。
『念のために言っておくけど、変な気を起こすんじゃないわよ。あくまで美咲の代わりよ。』
現実に打ち砕かれた想いに、悲痛の声すら上げることを許されない。
「その、ひとが、ちょと、怪我して。おじょ、さんのか、代わりに」
「うん」
話をへし折ることなく、ティッシュを渡してくれたハルさん。
そのさり気無い優しさに、目頭は更に熱くなる。
「わた、しが、行くことになって。でも、…彼は気づか、なくて…っ」
音となって、溢れ出した気持ちはまるでダムが決壊したように、止めど無く雪崩れてく。
もう何を言っているのか、自分でも分からなかった。
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