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『そう思ってた奴が実は罪人だったらどうする?』
ふと思い浮かぶあの意味深な言葉に、思わず手が止まる。
…冗談、なのに。
しこりを残されたような、そんな感覚。
罪人だなんて単語、ぽっと出るものなのだろうか。
そしてあの明るい奏人くんが、それを言ったのだから、やはり信じがたい。
『そのいい人っぷりが胡散臭いのよ』
胡散臭い、とは思わないけど。
陰りを感じる、と言った方が適切だ。
…あ。
違和感を覚えたのは私が、奏人くん像を描き過ぎたからだ。
誰にだって、何かあるのに。
太陽だなんて、私の押し付けでしかない。
それに気を悪くしたから、罪人って言ったのかもしれない。
ああ。もう私、最低な奴だ。
今になって、そんな当たり前な事に気づくなんて。
もう本当、ちゃんと考えてから喋ってよ…バカ。
憂いたところで、言った言葉はもう戻ってこないのは、十分に分かっている。
早く熱を下げて、謝りに行こう。
そして、いい成績が取れるような作品にしよう。
こんな償い方しか思いつかないけれど、後ろめたさが少しだけ軽くなったような気がして、再度作業に集中した。
その日はお母さんが倉庫に戻ってくるまでずっと、睡魔と闘いながら黙々と掘り続けて。
巻貝の形になった木を見て、我ながら上手く出来たと、言葉にならない達成感に浸りながら眠りについた。
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