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次の日。
身体を酷使してしまったせいか、薬が効かなかったのか、熱が下がることはなかった。
心配するお母さんをよそに、頭を占めるのはお見舞いに行けないこと。
昨日は行かなくて良かったって安心していたくせに。
なんて、我儘な感情なんだろう。
今日も美咲さんが行っているのかと思うと、焦燥感に駆られる。
何に対して焦っているのか、自分でも分からない。
早く謝りに行きたい、から来るものなのか。
もう時間が迫っているから…
はたと、"あること"を自覚してしまった。
滑稽なそれを振り払いたくて、慌てて彫刻刀を動かした瞬間
「った…」
親指の付け根から、痺れるような痛みが走る。
めくれた皮から、じわりじわりと深紅の液が浮き出てきた。
傷は浅くて、大事には至っていない。
でも胸を撫で下ろす余裕も無いほど、胸奥がざわついている。
…私、本当になんて事を。
あれだけ思い知らされてなお、抱いてはいけないその感情が潜在意識内にはあって。
口にさえ出せないほどの、身分知らずなもの。
今の自分を戒めたくて、いつもの本を手に取った。
何頁か読み進み、次の文に心が射抜かれたような気分になる。
21章4節
高ぶる目と傲る心とは、悪しき人の灯火であって、罪である。
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