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「それ、全然答えになってません…」
「そう?簡潔、かつ明白なんだけどな」
あっけらかんとした様子で車のライトを点けた。
もう帰る事を意味しているその行動に、忘れられていた恐怖心が再び存在を現す。
「それにしても人魚姫みたいだね」
「えっ…?」
聞き慣れないフレーズに、引き戻される。
人魚姫って、あの悲恋な物語を指してるんだよね?
「自分が助けたのに手柄を横取りされるじゃない。ホント、そのまんま」
あ、あ。
言われてみれば、確かに…そう、かも。
お姫様だと勘違いした王子様は、そのまま彼女と結ばれて。
…人魚姫は、泡になる。
結末まで一緒、だな。
あまりにも似たその境遇に、締め付けられた痛みは苦笑に変わって、静かな車内に溶けていく。
「懐かしー」
「へ?」
「いや。昔、人魚姫の話してたの思い出しただけ」
「…話?」
男の人が、人魚姫の話とかするの?
女の私でさえ絵本で読んだくらいで、そんな話した事ない。
「あの姫が後から人魚姫に罪悪感を感じて身を引いたならばっていう、仮想」
「…罪悪感、ですか」
「そー。結末、どうなると思う?」
不適な笑みが、なんとも意味あり気に感じる。
結ばれる筈の姫が引いたのならば、王子様は彼女を選ぶことはない。
結婚をしなかったならば、人魚姫は泡にならずに済む。
そこから、人魚姫の恋は実る可能性が出てくる。
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