噂のお方、桜の薫り

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先に着いた紀子さんは、扉を引いた。 「奏人、同級生の子が来てるわよ」 「えっ?」 驚いた彼の声が耳に入ってきて、僅かな頭痛がした。 もう本当になんて言ったらいいんだろう…。 「ほら、早く」 尻込みしている私を苛立った表情であかりさん。 仕方なく紀子さん、彼女の後に続いて病室に入る。 「えーと、…誰?」 「あっ、あの、雫です。緒沢 雫です」 「えっ…?え?」 心底意外そうにした彼は、動揺を隠せないみたい。 それもそうなるだろう。 全く親しくない私が急にやって来たのだから。 紀子さんとあかりさんの視線も私に集まっている。 緊張を通り越して、変な落ち着きを取り戻した私はもうどんな嘘をついても、この場を切り抜けるしかないと覚悟を決めた。 「実は今日、ちょっと言いたい事があって」 「…え? 言いたい事?」 「昨日、みさ…」 私を凝視するあかりさんを映り、言葉を詰まらせる。 …ダメだ。 もし美咲さんの耳に入ってしまったら、辻褄が合わなくなる。 また振り出しに戻り、なんて言おうかと考えを張り巡らせていたら。 「母さん、あかり連れてちょっと外してくれる?」 えっ…
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