噂のお方、桜の薫り

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「何謝ってんの。言いにくい事だったんだろ?」 「…うん…」 彼は本当に、どこまでも気がつく人だ。 そしてどこまでも優しい。 ふわりと笑うだけで、人をこんなにも幸せな気持ちにさせられるのは、きっと彼ぐらいだろう。 その緩やかな温かさに、全ての真実をさらけ出したい衝動に駆られる。 昨日、奏人くんを怒らせてしまったのは私なの。 スイカを切ったのも、触れるのに慣れていないのも、全部私なの。 「さっき美咲って言いかけてたよな? 美咲がどうした?」 鈍器で頭を殴られた気がした。 自分は何を、言おうとしているのだろう。 そんな事実、誰も望んでいなければ、知りたくもないのに。 「うん。実は昨日、奏人くんが怒ったって落ち込んでて。その、すごく反省してるから、出来たら許してあげて欲しいなって…」 彼に見られてなくて、本当に良かったと思う。 無理に笑うこともできないほどに、潰れた胸が、痛くて仕方ないのだから。
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