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「また見てるの?」
引き戸を開けて、背後から聞こえた穏やかな声。
目尻に浅い皺を刻んだ瞳は、少し呆れているようにも見える。
「…うん」
木枯らしのさざめく音に耳を傾けながら、今日もじっと同じ所を見つめる自分。
今日もどうか、会えますようにと心の中で願いながら。
「…♪………」
微かに聞こえる、懐かしい歌。
彼女の声は、何故こうも儚くて、心を掴んで離さないのか。
君がそれを唄う度、俺がどんなに嬉しくて、苦しいのか。
毎日、繰り返すこの問いにいつ終わりが来るのだろう。
「髪、切ったのね」
「…うん」
風に撫でられた髪は、出会った時を彷彿させる。
澄み切った瞳が、秘めた芯の強さと凛々しさをより一層際立たせている。
見た時は、息をするのも忘れたくらいだった。
「…諦めないのね」
ポツリと零れるような声色に、何も返さなかった。
今日も俺はまた、ここで彼女を通るのを待っている。
それが、なによりもの、答えだったから。
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