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恵まれた家庭に生まれ、愛情を感じなかったことは一度もなかった。
温厚な父親、愛情深い母親。
面倒見がよく、心優しい姉と兄。
絵に描いたような幸せな家族ではあったけれど、自分は一番出来が悪いのも事実だった。
幼い時から出来の良い上の二人と比べられ、抱えていた劣等感はいつしか捻くれに変わっていった。
そして小学生に上がった頃には、ひどく偏った思考の持ち主となっていた。
"頑張らなくても、親や姉兄がなんとかしてくれる。"
"将来は保証されている。"
本当にそう信じて疑わなかった。
努力することが自分にとっては疎遠のものであった。
だからこそ、ある質問をされると当惑してしまっていた。
"夢はなにか。"
同級生はバカみたいにバスの運転手やら漫画家だとのたまう。
内心で嘲笑っている反面、何もない自分の卑小さを思い知らされていた。
親が用意してくれるであろう仕事について、それなりにお金に困らない生活ができたらいい。
こんな虚無的な考えで、ただただぼんやり生きていた自分には、無限にある夢を想像することすらできなくなっていたのだ。
そんな自分が3年生にあがり、9歳の誕生日を迎えようとしていたあの日。
「誕生日プレゼント買いに行くわよーっ!」
「やったー!」
「たんと買うわよ!たんと!」
大袈裟なまでに喜んだフリをする。
そうすると、彼女は必要以上に買ってくれることを分かっていたから。
頭の悪さをカバーするためには、処世術に長けなければいけない。
いつしか、溺愛してくれる親にさえも打算的な考えで接するようになっていた。
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