抱く、壮大たる夢

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「しずもさっき…あ、しずって私の名前なの」 知ってるよ。 半年以上も前から、知ってる。 「それで、しずもさっき悲しい事があったの。でも元気出たから、…その、ありがとう」 ふにゃっと三日月の形になった目から、光が溢れてるような幻覚。 澄み切っている瞳に、心臓を射抜かれて、微動だにできない。 「お礼…したくて。えと、でも今、これしか持ってなくて…」 ポケットから何かを取り出したしずは、申し訳なさそうな顔で差し出してきた。 小さすぎる掌に乗っているのは、桜色の包み紙の飴と真っ新な消しゴム。 「二つともね、今日もらったの。この消しゴムね、しずが消しゴム忘れたらたっちゃんがくれたの。あ、たっちゃんっていうのは友達ね。でね、飴はゆっちんにもらったの。あ、ゆっちんもしずの大切な友達なの」 込み上がってくる、熱いものに声が出なくて。 しどろもどろに話す彼女の姿に、胸が、張り裂けそうだった。 「お母さんがね、感謝する時はちゃんと気持ちを込めなさいって言ってたからね。でも今何も持って無くて。でもこれ、宝物にしようと思ってから。だからあげる」 俺の手を引いた彼女はそっとその宝物たちを握らせた。 触れたところから、短く、細い指先の体温が滲んでゆく。
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