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「しず、何か欲しいものある?」
「えっ?」
「俺、なんでもあげる」
「…あなたも働いてるの?」
「えっ?働く?」
聞き直した途端、しずの顔から笑みが消えた。
下がってしまった口角に焦りを感じて。
「え、ごめん。なんか俺、言った?」
「あなた、お金持ちだよね?」
「いや…そんなことないけど…」
「ううん、きっとそうだよ。だってそんな贅沢なことが言えるんだもん」
「え…?」
贅沢、って。
俺はただ、しずに喜んで欲しいだけなのに。
予想外な返事は太く尖った針になって、胸に突き刺さる。
「自分で働いたことないのに、そんな事言っちゃだめだよ」
射抜くような真剣な眼差しに、全てを見透かされたような気分になって。
…心臓が、止まりそうだった。
「もう行くね。…ありがとう」
彼女から口調から感じた、明瞭な嫌悪感。
理由を聞くどころか、引き止めることすら、出来なかった。
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