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「あの夫婦、見るからに下衆そうだし」
「別に悪い人じゃないんだけど、ねぇ…。美咲ちゃんも可愛いし」
「こないだ滝川さんとこの娘も褒めてなかった?」
「望ちゃん?あの子も可愛いわよねぇ。でもあかりちゃんも美少女だし…」
「紀子さん、話が逸れてますよ」
「あ…はい」
…信じたくないのに。
謎めくほつれた糸が、徐々に解けていく。
会話が、耳をすり抜けて。
頭の中は真っ白になってしまって、どうやって部屋に戻ってきたのかも分からない。
走馬灯みたく、じわじわと今までの事が浮かんでくる。
伊藤の表札を構えた家に帰りたがらないのも
欲しい物を我慢するのも
あのムカつく美咲に刃向かわないのも
全部、"家政婦の子"、だから。
『自分で働いたことないのに、そんな事言っちゃだめだよ』
同い年の彼女は、もう働いてたんだ。
だから俺に、あんな事を言ってたんだ。
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