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『次は100点取るからね!その時はもっと喜んでねっ。しず、お母さんが笑ってくれるならどんな事でも頑張れるから』
あんなにも健気に、頑張ってるのに。
俺なんか比べ物にならないほど、しっかりしてるのに。
『千円あるんです、何か買えるものはありませんか』
初めの頃、惨めだと、みっともないと蔑んでしまった。
一番軽視される対象は、そう思う俺のような人間でしかないのに。
『あなた、お金持ちだよね?』
何の苦労もせずに、親に甘え切った俺を、見抜いていたのだろう。
だから、あんな複雑そうな表情をしてたんだ。
『だってそんな贅沢なことが言えるんだもん』
親の恩恵を当たり前にして、それで喜ばそうとした自分の浅はかさと愚かさを痛感して。
初めて、自分という人間を恥ずかしく思った。
居た堪れなくなって、布団の中に潜り込んだけれど、罪悪感や羞恥心の侵食が止まらない。
ああ。
めちゃくちゃ、…辛い。
コン コン
突然の訪問者に、ハッとして。
慌てて布団を剥ぎ取って返事をすると、部屋に来たのはさっちゃんだった。
「今日はどうしたの?」
隣に座った彼女は、あくまでも、知らないフリをするらしい。
「もういいよ。さっきリビングでの話、全部聞いてたから」
目を見開いて、言葉が出ないみたい。
盗み聞きを白状したのは相手が、一番口が固くて、何でも話せる彼女だったから。
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