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ふっと柔らかく微笑んだ彼女は、俺を抱き寄せた。
仄かに漂う桜の薫りに、気分が和らぐ。
「悲しい?」
「…うん。あと、自分がすごくちっぽけに思う」
「なんで?」
「だって俺…何もできない」
「まだ小さいんだから、何も出来なくて当たり前でしょう」
「でもしずは違う」
同い年なのに、俺の何倍もしっかりしてて。
お母さんの誕生日プレゼントだって、自分でお金を貯めてた。
「あの子は…環境に恵まれなかったからね」
「…神様は、不公平だ」
「ええ、とってもね。でもあの子は幸せだなって思うわ」
「なんで?」
「だってこんなに想ってあげる相手がここにいるんだもの」
「…でも、結局何もできないじゃないか」
全部親に頼りっきりで、甘ったれた自分。
頭も悪くて、何一つ、出来やしない。
「もし出来るなら、何をしてあげたいの?」
「…しずが欲しい物、全部買ってあげたい。そうしたら絶対喜んでくれるから。それ見て俺も嬉しくなるんだ」
カラン コロン
あの音まで鮮明に覚えてる。
『おいひー』
ふわふわとした、とろけそうな笑み。
こっちまで幸せな気分になって。
…愛しい、とさえ、思ってしまった。
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