抱く、壮大たる夢

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「賢くなったら稼げるってパパが言ってたっ」 父さんは険しそうな表情で言ったけど、全然耳に入って来なかった。 そんな事を言ってても、助けてくれるってずっと信じてたから。 でもそれじゃ、しずは喜んでくれない。 余計、嫌われるだけだ。 「俺が賢くなって、いっぱい稼げるようになったら、しずに嫌われなくなる?」 「もちろん」 「その、…喜んでくれる?」 「そりゃあ」 目尻の皺をいっぱいに寄せたさっちゃんは、大きく頷いてくれた。 大正解と、言わんばかりに俺の頭を何度も撫でる血管が浮き出た白い手に、芽生えた意欲を促がされる。 「さっちゃん」 「うん?」 「見てて」 「うん」 ピアノも、文房具も、しずの欲しいものをなんでも買えるように。 あの笑顔を絶えずに、見られるように。 「…俺、頑張るから」 4年生の、春。 初めて、夢が出来た。
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