辿りゆく視線の先

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あの日から、苦痛に満ちた生活は始まった。 全く基礎がなかった俺は、母さんがとっておいた一年生からの教科書を全部引っ張り出した。 4年の一年間は今までの総復習に時間をかけた。 残りの5年、6年は毎日学校と受験塾の勉強に追われるだけの生活。 学校の授業も、テストも、物覚えが悪い分、人の倍以上時間をかけて励んだ。 自分の要領の悪さに何度も悔し泣きをした。 頭を悪く産んだ母さんに八つ当たりだってした。 それでもしずにもらった消しゴムと、あのキラキラした笑顔を思い浮かんだら、踏ん張れた。 挫けそうになったら、こっそり会いに行き、笑った顔が見れた週は、弱気な自分ともおさらばできた。 本当に毎日、勉強しかしてなかった。 「大きくなったわねぇ!ますます男前になっちゃって!」 「お久しぶりです」 「ここのケーキ、好きって聞いたから買ってきたの。食べてね」 「そんなに気を遣わなくてもいいのに…本当、ありがとうございます」 ケーキ箱を受け取り、いつものように会釈する。 すると家に遊びに来た母さんの友人はきょとんとした。 「…なんか、変わった?」 「えっ?そうですか?」 「うん、なんか変わった感じがする。大きくなっただけ?」 「はは、なんすかそれ」 本当は、誰よりも一番実感している。 人は、不思議な生き物だ。 夢があると、余計な事なんて考える暇もない。 そして次第に上がっていく点数を目にする度に、着々と自信が自分の心の中に灯されてく。
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